当法人の初年度の事業の一つ、対談シリーズ「匠と語る日本の未来」は、皆様のご支援のおかげで、去る12月13日に無事完了致しました。
14回にわたるさまざまな匠の方々のお話は、それぞれ胸に深く残るもので、この春には記録の出版を予定しておりますが、最終回の裏千家千玄室大宗匠のご講演は、本シリーズの最後を締めくくるに相応しい素晴らしいものであったことから、取り急ぎここにその概略をお伝えします。
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ご講演当日の12月13日は、京都では「事始め」と言われる大事な日でした。「事始め」は、古来宮中や武家で行われてきた有職文化が日常生活にも取り込まれてきた季節の節目のしきたりのひとつで、正月を迎える準備を始めてよいという日とのこと。
日本人の自然や季節を尊び愛でる心が、生活の中にしきたりとして根付いてきた「事始め」のお話から始まり、大宗匠の外国での多様な交流や戦争体験などを通じて日本人の精神性と「匠」の価値を、記紀、万葉集、『茶の本』など多くの古典を引用しながら、幅広い文化的背景から語られました。
会場となった京都美術工芸大学のホールには、各地から集った聴衆だけでなく多数の学生も参加し、大宗匠の次代への熱い思いが心に深く印象付けられるご講演でした。
「匠」という「技」は、単なる”skill”ではなく、「工夫(考える)・創意(実行に移す)・趣向」をあわせ持つ”philosophy”と考えるべきであること。「匠」には高度な技術でものを作るということだけでなく、高い精神性が求められ、両者が高度に発揮されなければ真の「匠」とは言えない。それは、武士道や茶道の基本にある日本人の精神性、すなわち「理」だけではない「情」「美意識」の文化に深く支えられているという。
「もてなし」について、茶道や武士道に基づいて次のように述べられました。「一期一会」、利休七則の「茶は服のよきように点て」、などを引用され、相手への思いやり、謙虚さ、加減、物事や人の「間」を大事にする精神、無駄な衝突を避ける精神、一体感を大事にする精神が、「もてなし」に通ずる。例えば、茶道で、茶碗の正面を避けてお茶を頂くという作法は、相手に対して一歩引く姿勢を示すこと。“May I help you?” "thoughtful”の意であると。
そして、万葉集第一巻にある舒明天皇の国見の歌を引用し、天皇が国家の安寧を願い万人平等を思う心をよく表しており、民との精神的な結びつきがあることにも触れられました。
「匠」の伝統と伝承は、単なる技術ではなく、「真・善・美」を大事にする一人ひとりの思いをフォーカスすることで紡がれていくものであると述べられました。
予定の時間を超え、分かりやすい丁寧な説明で、時にユーモアを交えたエネルギー溢れるお話は、若い学生たちも深い感銘を受けたことと思います。